医療費控除関係の取扱いが平成29年分から変わります!(事務所便り特別号)
平成29年12月
濱田会計事務所
《1》平成29年分から医療費控除の明細書は書き分けが必要に
平成29年分より、医療費控除は従来の制度に対する特例として、セルフメディケーション税制が創設され、2種類の制度のいずれかを納税者が選択適用することになりました。
┌─【原則】──┐・健康増進のための取り組みや
┌───┐ ┌─→│従来からの │ 証明書などは不要
│医療費│ │ │医療費控除制度│・足切り額が高い代わりに、
│控除 ├─┤選択└───────┘ 控除限度額も大きい
│制度 │ │ ┌─【特例】──┐
└───┘ └─→│セルフメディ │・健康増進のための一定の
│ケーション税制│ 取り組みとその証明書が
└───────┘ 必要(申告する本人分)
・対象がスイッチOTC医薬品
限定の代わりに、足切りが
低い
・足切りが低い代わりに、
控除限度額も低い
参考)
セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について[厚労省]
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
知ってトクする セルフメディケーション税制:[日本一般用医薬品協会]
https://www.jfsmi.jp/lp/tax/
これを受けて、医療費控除の明細書は、一般用とセルフメディケーション税制用の2種類に区別されました。
参考)
医療費控除の明細書(従来からの制度分)
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/yoshiki02/pdf/ref1.pdf
セルフメディケーション税制の明細書
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/yoshiki02/pdf/ref2.pdf
一般用かセルフメディケーション税制用のどちらか一方を、確定申告時に納税者が選択して適用することとなりますので、ご注意下さい。
確定申告書提出後に、後日、もう一方が有利であることに気がついても、更正の請求により選択をやり直しすることはできません。
《2》医療費控除の領収証不要は本当か
国税庁から、「医療費控除は領収書が提出不要となりました」とのパンフレットが出ているので、愚問のようですけれど。
「医療費控除は領収書が提出不要となりました」[国税庁]
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/pdf/iryoukoujyo_meisai.pdf
ところが、実は、答えは「実務的にはウソ」となります。
パンフレットでは、
「医療保険者から交付を受けた医療費通知を添付すると、明細の記入を省略できます。(医療費通知とは、健康保険組合等が発行する「医療費のお知らせ」などです。)」
となっているのですが、実は、現状の医療費通知については、自己負担額以外の10割記入がされていたり、期ズレがあり、領収証の代替機能を果たしません。
実は、医療費控除の明細書そのものも、通知書記載の医療費の額が実際の支払額と異なる場合には、実際に支払った額を書くようになっています。
更に、領収証は提出しない場合、自宅で5年間保存が必要であり、税務署から提示又は提出要求があれば、それに応える必要があります。
つまり、簡単に言えば、「まだ医療費通知書で医療費控除できる体制が整っていない」のです。
ですから、従来通り、申告書に領収証を添付して提出するのが一番楽です。
自宅で保管と言いますが、紛失のリスクは自分で負う必要があります。
ただし、平成32年分からは、領収証の添付提出そのものができなくなります。
税務署も、保管場所に困っているからです。
ということで、将来的には、通知書を使えば、保険診療分については、領収証添付が不要になる時代が来る筈ですが、それまでは、まだ時間が掛かります。
税務署のパンフレットを見て、疑問を持たれる方がおられると思います。
このような事情があることを、ご承知おき下さい。
┌────────────────────────┐
│仮に、通知書が完全に領収証と代替できるよう │
│になった場合でも。 │
│ │
│自費診療分の領収証は、通知書に出てきませんので、│
│対象外になります。 │
└────────────────────────┘
ご注意頂ければ幸いです。
《3》医療機関の方々が行うべきセルフメディケーション税制への対応
個人が、医療費控除の特例であるセルフメディケーション税制を平成29年分以後の確定申告で受けるには、医薬品の購入額をまとめた明細書に加えて、一定の健康診断や予防接種を受けている等の健康増進のための一定の取り組みの証明書類が前提になります。
┌─────────────────────┐
│よって、健康診断等の受診を証明する書類を、│
│確定申告時に添付または提示が必要です。 │
└─────────────────────┘
(注:確定申告する方の、確定申告の対象年度での受診が前提です。平成29年分について、平成30年になってから受診しても利用できません。)
そこで、医療機関の方々は、患者さんから、この問い合わせがあった際の対応を確認しておく必要があります。
1)インフルエンザの予防接種を受けた場合
┌────────────────────────┐
│予防接種の領収書(原本に限ります。以下同様です)│
│を提出すれば足ります。 │
└────────────────────────┘
医療機関として、証明書を発行する必要はありません。
領収書を紛失しないようにだけお伝え下さい。
なお、
┌────────────────────┐
│予防接種済証の提出でも足りる取扱いです。│
└────────────────────┘
2)市町村のがん検診を受けた場合
┌──────────────────────┐
│この場合も、領収書又は結果通知表(の写し) │
│の提出で足ります。 │
└──────────────────────┘
よって、医療機関側では、インフルエンザ予防接種の場合と、基本対応は同じです。
なお、結果通知表の写しを提出する場合、検査結果部分を黒塗りして差し支えないとされています。
3)勤務先で実施される健康診断(定期健康診断(事業主健診))を受診している場合
┌─────────────────────────┐
│勤務先で実施される定期健康診断にかかる結果通知表に│
│「定期健康診断」という名称があるか、あるいは、 │
│「勤務先の名称」の記載があれば、この書類(の写し)│
│の提出で足ります。 │
└─────────────────────────┘
提出時に、検査結果部分を黒塗りしてよいのは、2)と同様です。
この場合も、医療機関側は、証明書を別途発行する必要がありません。
4)特定健康診査(メタボ健診)を受診している場合
┌───────────────────────────┐
│特定健康診査の領収書又は結果通知書に、 │
│「○市国民健康保険」など、保険者の名称記載がある場合、│
│その領収書又は結果通知書を提出すれば足りる │
└───────────────────────────┘
こととされています。
この場合も、医療機関側は、証明書を別途発行する必要がありません。
5)健康診査
┌───────────────────────────┐
│健康診査の領収書又は結果通知書に、 │
│「○市国民健康保険」など、保険者の名称記載がある場合、│
│その領収書又は結果通知書を提出すれば足りる │
└───────────────────────────┘
こととされています。
この場合も、医療機関側は、証明書を別途発行する必要がありません。
┌──┐
┌│注意│対象にならない健康診査があります。────────┐
│└──┘ │
│ │
│・市町村が自治体の予算で住民サービスとして実施する健康診査│
│・申請者が任意に受診した健康診査(全額自己負担) │
│ │
│は、この一定の取り組みには含まれません。 │
│ │
│また、健康診査などの結果により、要再検査や要精密検査と │
│判定されて受けた検査は対象になりません。 │
└─────────────────────────────┘
6)別途証明書を発行する必要がある場合
このように、医療機関が証明書を発行する必要性はないことになります。
しかし、
┌───────────────────────────┐
│単に保険者から補助を受けて「人間ドック」を受診する場合│
│等で、結果通知表に保険者や勤務先の名称記載がない場合が│
│あり得ます。 │
└───────────────────────────┘
(上記の3)4)5)でも、勤務先名や保険者名の記載がないことがあり得ます)
その場合については、
┌──────────────────────────┐
│厚生労働省が定める書式の証明書を「保険者」に発行して│
│貰う必要があります。 │
└──────────────────────────┘
医療機関自身が発行するのではなく、保険者による発行ですので、患者さんが直接、各保険者に申し込んで頂く必要があります。
このあたり、当分は現場での混乱が予測されます。
参考)
(「特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)」の創設に伴う証明の発行について(協力依頼)(厚生労働省健康局健康課長ほか 平成28年11月15日))
なお、インフルエンザ予防接種など、これらの一定の取り組みのための費用そのものは、従来からの医療費控除同様、控除の対象となりませんので、ご注意下さい。