速報 平成30年度税制改正大綱公表(事務所便り特別号)
平成29年12月
濱田会計事務所
自民党が平成29年12月14日に公表した平成30年度税制改正大綱に基づき、改正の中で特に知るべき内容をお知らせします。なお、速報性とわかりやすさを重視するため、正確性をある程度犠牲にしている点、御容赦下さい。
《1》法人投資減税関係
○当初報道のような法人税の実効税率を直接いじることはしません。
○優遇制度を全部使えば、実効税率が下がったのと同じ、という話です。
○大法人向け制度と中小企業向け制度とで、大きく異なります。
1)大企業向け(中小企業でも利用可能)
○大企業向け制度は、基本、アメムチの制度です。
(1)所得拡大促進税制の改組
┌────────┐
│平均給与等支給額│
│の増加割合が ├─────┐ ┌───────────┐
│3%以上 │ │ │給与等支給増加額の │
└────────┘ │ │15%税額控除 │
│ │ただし、 │
+(2つがセットで必要) ├→│教育訓練費の増加が │
│ │過去2期平均の20% │
┌────────┐ │ │以上増加している │
│国内設備投資額が│ │ │場合は、20%税額控除│
│減価償却費の総額├─────┘ │(法人税額の20% │
│の90%以上 │ │ 上限あり) │
└────────┘ └───────────┘
○所得拡大促進税制改組のポイント
◆控除率が引上げ
◆国内設備投資要件付加→賃上げだけでは適用できなくなった。
◆教育訓練費増加により控除率上乗せ
★給与支給額の増加計算は、平均計算だけ必要
→基準期間との比較計算を廃止。
★平均給与等支給額・比較平均給与等支給額は継続雇用者の範囲を見直し
「当期及び前期の全期間の各月において給与等の支給がある雇用者で一定のものとするほか、所要の措置を講ずる。」
★中小企業向けは別枠制度
○教育訓練費の内容は、以前の制度を踏襲するのかどうか、まだ不明です。
(2)情報連携投資等の促進に係る税制の創設
★5000万円以上のソフトウエア投資でセキュリティ専門家の確認要件あり →かなりハードルが高い
★「生産性向上の実現のための臨時措置法(仮称)の革新的データ活用計画(仮称)について認定を受けたもの」が対象
★取得価額の30%の特別償却とその取得価額の5%(所得拡大促進税制の賃上げ要件を満たさない場合には、3%)の税額控除との選択適用
(3)租税特別措置の適用要件の見直し
┌───────────────────────────┐
│【クリアすべきハードル】 │
│①平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えること │
│ または │
│②国内設備投資額が減価償却費の総額の10%を超えること│
└───────────────────────────┘
│
│①②いずれも満たせない場合
│(いずれか満たせばペナルティはなし)
↓
┌─────────────┐
│【ペナルティ】 │
│3つの税額控除制度について│
│適用制限 │
│ │
│[1]研究開発税制 │
│[2]地域未来投資促進税制│
│[3]情報連携投資等の促進│
│ に係る税制 │
└─────────────┘
○租税特別措置適用要件見直しのポイント
◆平均給与等支給額(前事業年度比)に係る要件の創設
◆国内設備投資額(当期の減価償却費の総額比)に係る要件の創設
→医薬品開発メーカーなど試験研究費の大きな企業には大打撃か。
◆対象は、「平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度」
◆適用除外として、「所得の金額が前事業年度の所得の金額以下の一定の事業年度」
→基本的には、(比較)平均給与等支給額の計算が毎期必須化する。
(4)中小企業における所得拡大促進税制の改組(P73)
○大法人向けのようにアメムチではなく、基本アメです。
┌──【基本】───┐ ┌──【特則】────┐
│ │ │ │
│平均給与等支給額の│ │平均給与等支給額の │
│前年比増加割合が │ │前年比増加割合が │
│1.5%以上 │ │2.5%以上 │
│ │ │ + │
│→給与等支給増加額│ │教育訓練費増加割合 │
│ の15%税額控除│ │10% │
│ │ │ or │
│(上限は法人税額 │ │強化法による │
│ の20%) │ │経営力向上証明 │
└─────────┘ │ │
│→給与等支給増加額の│
│ 25%税額控除 │
│ │
│(上限は法人税額の │
│ 20%) │
└──────────┘
★教育訓練費増加は、前期教育訓練費額に対する増加割合
→大企業向けと異なる。
★強化法による経営力向上証明は、
「その中小企業者等がその事業年度終了の日までにおいて中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたもので、その経営力向上計画に記載された経営力向上が確実に行われたものとして証明がされたこと。」
→誰が何をどう証明するのか、中小企業庁の発表を見るまで分かりません。
(5)固定資産税の減免措置の創設
┌【目的】──────────┐
│「生産性革命」の実現に向けた│
│ 中小企業の設備投資の支援 │
└──────────────┘
┌【手段】───────────────────┐
│生産性革命集中投資期間中における │
│┌────────────┐ │
││臨時、異例の措置として、│ │
│└────────────┘ │
│地域の中小企業による設備投資の促進に向けて、 │
│「生産性向上の実現のための臨時措置法(仮称)」 │
│の規定により │
│┌───────────────┐ │
││市町村が主体的に作成した計画に│ │
││基づき行われた │ │
│└───────────────┘ │
│中小企業の一定の設備投資について、 │
│固定資産税を2分の1からゼロまで軽減する │
│ことを可能とする │
│ │
│3年間の時限的な特例措置を創設する。 │
│本特例措置については、 │
│生産性革命集中投資期間限りの措置とする。 │
└───────────────────────┘
→中小企業等経営強化法に規定する
認定経営力向上計画に基づき
中小事業者等が取得する
一定の機械・装置等に係る
固定資産税の課税標準の特例措置については、
平成30年度末の適用期限をもって廃止する。
○従来制度は、期限到来で廃止です。
○新制度は、市町村が作成する計画に則って行う設備投資に限られます。
○新制度も強化法に基づく制度ですが、新法成立が前提です。
○減免額が2分の1なのかゼロなのかその間なのかは条例で決まります。
→具体的な内容が分かるのは、まだかなり先になりそうです。
《2》事業承継税制
┌────┐
│既存制度│←─┐
└────┘ ├─納税者による選択適用可
┌────┐ │
│新制度 │←─┘
└────┘
│
└────── 10年間の期間限定で大判振る舞い
【新制度の特徴】
○猶予税額・猶予株式数の枠を撤廃。
○従来の確認制度でなく、計画的取り組みを必要とする制度。
○代表者からの承継とセットで他株主からの承継を視野。
○8割雇用維持要件の事実上撤廃
→かなり使いやすくなっていますが、あくまでも納税猶予制度です。
《3》小規模宅地特例・一般社団法人の利用による節税スキーム規制
○「家なき子」の悪用にメスを入れました。
→節税目的で作出された「家なき子」には特例が使えなくなります。
○非営利型以外の一般社団法人・一般財団法人の場合、保有資産に相続税が課される場合が生じます。
→これも、富裕層の相続税逃れ封じです。
《4》所得税の控除関係見直し
○給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除の3つの控除の見直しです。
○高収入の給与所得者や年金受給高齢者には増税になります。
○基礎控除は10万円増加が基本ですが、高所得者はとれなくなります。
→寡婦控除の見直しは平成31年度税制改正での議論送りとされました。
○事業的規模の場合の青色申告特別控除65万円が10万円引き下げとなりますが、電子申告や電子帳簿の利用があれば、そのまま維持されます。
→電子帳簿は申請による承認が必要です。
《5》納税環境整備
○報道通り、資本金1億円超の大法人は、電子申告義務化です。
○所得税の確定申告や年末調整で、保険料控除証明書や住宅ローン控除証明書が電子的に利用できるようになります。
○支払調書の電子提出ないし光ディスク提出の基準が、1000枚以上から100枚以上に引き下げになります。
○相続税申告における法定相続情報証明制度の利用については、書式を法務局に見直しして貰うことを前提に、使えるように改正を行う模様です。
○従来、相続税申告書には、戸籍原本の添付が必要で、原本還付がなかったわけですが、改正により、複写でよくなる模様です。
→戸籍入手部数の問題がかなり楽になります。
《6》その他
○不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置の適用期限を2年延長する。
→印紙税は、ここのところ、特例措置が続いています。
○ASBJの収益認識会計基準策定に対応して、収益認識日の規定が明確化される予定です。
→上場企業は一安心でしょうか。
○返品調整引当金と長期割賦販売の延べ払い基準は、10年間取崩しの経過措置があるものの、廃止されます。
→繰延割賦利益額の取崩しは、平成30年4月1日以後終了する事業年度からなので、業種によっては、早急な対応が必要です。
○相続登記に係る登録免許税の見直しで、数次にわたる相続を経ても登記が放置されている土地や、相続登記を促進すべき地域における少額土地(一筆10万円以下)について、登記に係る登録免許税を減免する措置がなされます。
→所有者不明土地の登記が現況と乖離している問題への対処です。
以上